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鴎の忘備録

エッセイとか・・・日記とか・・・・

. 夢中ビオロン協奏曲 vol.2


    夢中ビオロン協奏曲 vol.2
 
 
 『おとろふ』は木造建ての小さな駅だった。
 
 改札口の小さな小さな出窓は、木戸で堅く閉ざされ、
 
ところどころにある虫食いの穴が、もうずいぶん前から
ここが無人駅であることを物語っていた。
 
 駅舎を出ると長い坂道が延々海まで続いている。
 
 頭上ではカモメが数羽、強い潮風に吹かれながら
舞っていた。
 
 ガラス玉。ガラス玉。
 
 口の中でつぶやきながら、ゆるやな坂道を下って行く。
 
 道の途中には、物干し竿にコンブをぶら下げた
漁師たちの漁り小屋が並んでいる。
 
 飼い主が漁に出ているのか、暇を持てあましている
三毛猫が、こちらを見て小さく鳴いた。
 
 
ガラス玉。ガラス玉。
 
 坂道を半分ほど降りたあたりで、雑貨店を一軒見つけた。
 
 看板の『海物屋』というのが、いかにも、だったので
覗いてみることにした。
 
 中は思ったよりも広い。鯖の水煮や、鮪のフレーク、
オイルサーディンなんかの缶詰が、木棚の天井まで
ぎっしりつまっている。
 
 
 もっと床に近いところにはガラスのケースに駄菓子が
 
収まり、その一つ一つに『うずまきかりんとう』『マコロン』
 
 『えびす豆』等、思いがけないほど丁寧な字体で書かれた
紙が貼ってある。
 
 柱には、真新しい軍手がいくつもぶら下がり、
小さな魚網まで置いてあるのに、目当てのガラス玉の浮き玉は
どこにも見えなかった。