鴎の忘備録

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「夢中ビオロン協奏曲」   vol.3


「夢中ビオロン協奏曲」   vol.3
 
 
 
 「何かお探しですか」
 
 声を掛けられて振り向くと、眼鏡をかけた青年が立っていた。
 
やせて神経質そうな青年からは、まだ学生の雰囲気が漂っている。
 
探し物を告げると、青年は首を傾げ考える風をした。
 
 「僕ではわかりませんので母に聞いてきましょう。僕は普段は
 
札幌に住んでいて、週末にこちらに帰ってくるのです。
母は今、二階でレコードを聴いています」
 
 
 そう言い残し青年は奥へ消えていった。
言われてみると、なるほど、いつのまにやら、音楽が流れている。
 
だれの作品なのかはわからないが、おそらくロマン派後期の
ヴァイオリンコンチェルト。
 
 「これは母が作曲したものです」
 
 突然目の前に女性が現れた。
女性は、海辺の漁師村には似つかわしくなく、髪を肩口で
きちんとカールし、念入りに化粧をした顔で立っていた。
 
 
目鼻だちのはっきりした顔に、赤いチエックのスーツが
華やかさを増していた。
 
 「母です」
 
先ほどの眼鏡の青年が紹介する。
 
なかなかに出来た曲だと挨拶すると、女性は大まじめに頷き、
店の隅の小ぶりなソファに座るようすすめてくれた。

                     vol.3  seagull.t