鴎の忘備録

エッセイとか・・・日記とか・・・・

「おもいでアルバム」 その一

「おもいでアルバム」 その一

   「金太郎腹巻」   

3歳のころを過ごした町に「お臍の無いおじさん」

と呼ばれている男性がいた。

真冬の寒い日でもない限り、いつも裸に近い姿で過ごしていた。

子供の目線でみると、大きな大きな男の人であった。

ただ、なぜかその大きなお腹には、幅の広い分厚い腹巻をしていた。


なんの職業であったか・・・

祖母も母も亡くなった今となっては、、

自分の中に残っている、記憶だけである。


そのおじさんは、いつも玄関先で金槌で

何かを修理していたように思う。


町内の小さな子供たちは、おじさんの手捌きに感心して

屈みこんでそれを眺めていた。


ある日、一人の子供が、腹巻をしたおじさんの、

大きなお腹に興味を持った。

「おじさん、腹巻の中のお腹はどんなに大きいの?」


「みせて!みせて!」

子供たちは叫んだ。

おじさんは、無言で家の中へ入ってしまった。


そうなると、子供たちはしつこい。

毎日のように家の前でおじさんを囲み、

屈みこんで尋ねた。


ついにその時がきた。


おじさんは、分厚いラクダ色の腹巻をゆっくりと引き上げた。

「・・・」

子供たちは無言になった。

”おへそが無い”

走るように子供たちは散っていった。


夕食になっても無言の私に、母は言った。


「あのおじさんはね。雷様が鳴っている時に
 腹巻をしていなかったので、お臍を雷様に取られて
 しまったのよ」


当時、子供たちは寝る時にお腹を冷やさないようにと、

金太郎腹巻をさせられていたものであった。


その時は、しっかりとそれを信じて母の言いつけを守り

寝る時は金太郎腹巻をした。

 

そのおじさんのお腹は、大きな手術をしたからだと

聞かされたのは、ずいぶん後になってからであった。