読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

鴎の忘備録

エッセイとか・・・日記とか・・・・

「雨のうた」  vol.1 

エッセイ

今日3月1日は、ポーランドの作曲家ショパンの誕生日である。

ピアノの詩人”と呼ばれたショパンの曲は

折に触れて心に沁みてくる。

かなりの遠い日に書いた、拙い私のエッセイを、

もう廃刊になった同人誌から見つけた。


 「雨のうた」

そぼふる雨の音を聞いていた。

各駅停車の鈍行列車は静かに走る。

買い物袋を両脇に置いて、空いた紺のシートに腰掛けていた。

晩夏の昼下がり。

揺れる車両の振動と、ガラスに斜めの線を描く雨筋のコントラストに、

古い歌を思い出していた。


雨の降る日はショパン

こう歌っていたのは、髪の長い、線の細い女優だったように

覚えている。


ささやくような歌声。

アンニュイな表情。

少し哀しげな歌詞。


当時、真新しい洒落たイメージのこの曲は

ずいぶん流行した。

けれども、私はあの頃、この曲を聴くたびに思っていた。


ショパンは雨に似合うかしら。

ショパンの緩徐曲に合う風景は、夜だと、

いつも思っていた。


それも、ぼんやりと月が半分雲に隠れているような、

そんな天気がいい。

風はあまり強くなく、空気もあまり冷たくない。

心地良い気温と、柔らかい光に、

眠るのが惜しい・・・・・


そんな晩に、病弱だったショパンはピアノを弾いていた

のではないかしら。

 

数あるノクターンの美しい響きに

そんな匂いが漂っている。

遺作の最後に繰り返される半音階のきらめき。

月や星の弱々しい光が地上に降ってくる音にも似た、

このうえなく繊細なピアニシモ。


五番の中間部は、ショパンが暮らしていたマヨルカ島

別荘の中庭に植えられたオリーブの、曲の、

木の葉のささやき、といったところであろうか。

       
     vol.1      seagull.t