鴎の忘備録

エッセイとか・・・日記とか・・・・

「良いにほい」

「良いにほい」

 

久しぶりに晴れ渡った秋の日のこと。

後ろ延ばしにしていた用事を今日こそは、

と出掛けた。


街の中心を走る地下鉄は、相変わらず満員。

それでも老人席に近い座席は、スマホの使用を

遠慮してか、いつも少しの空席がある。

 

ドア近くのその席には、小学高低学年らしき男子が

母親と座っていた。


二人は少し席を詰めて座り直し、私に勧めてくれた。

軽く会釈をして私は空けてくれた座席に座った。

 

やはり、地元の方ではなかった。

「○○へ行くのは何という駅で降りると良いのでしょう」

それは、親子で楽しめる娯楽施設であった。


私が喜んで説明したのは言うまでもない。


一足先に私の降車駅に着いた。

「それでは・・・」

お互いに会釈をかわして、私は席を立ちドアに向かった。

 

私の背中越しに、坊やが母親に話す声が聞こえた。

「あの人、生きているのに良い匂いがしたね」

 

生きているのに良い匂い???

何度も心の中でつぶやいてみた。


あっつ!!!


思い当たることがあった。

お線香の匂いである。


母の命日に焚くお線香の匂いが私に沁みついていたのだろう。


子供の発想は、実に素直である。

そして日常に慣れてしまっている大人の心を

はっとさせてくれる。


「ありがとう坊や!!!」


自分の口元がほころぶのを覚えながら、雑踏に紛れて歩き出した。